グーグルグラスを着用して自動車を運転。世界初の交通違反に問われた女性に対し、米国サンディエゴの裁判所は1月16日、違反を取り消す決定を下した
カリフォルニア州在住のセシリア・アバディ(Cecilia Abadie)さん(44)は昨年10月29日、サンディエゴの高速道路をグーグル・グラスを着用し、愛車プリウスを運転。注意散漫運転とスピード違反で交通違反切符を切られていた。
カリフォルニア州の道路交通法は「ドライバーの視界に入る位置で、テレビ等のモニターをオンにして運転する行為」を禁じている。裁判所は「アバディさんのグーグルグラスが運転中に動作していた証拠は無く、証拠不十分」として、違反を無効とした。

9ヶ月前にグーグルグラスを入手し、explorer(先行入手した開発者)として毎日12時間グラスを着用してたアバディさんにとって、運転中のグラス使用は日常的なことだった。裁判を前に彼女は「運転中のグーグルグラス着用に一切危険はない」「もしも、警察側に有利な判決が下れば、私は自分の権利が侵害されたと感じる。現在の交通法規はテクノロジーの発展に追いついていない」と持論を展開。

ツイッターでは#freececilia(セシリアに自由を)とのハッシュタグで、彼女を支援する動きが広がり、米保守系メディアの代表格「Fox News」も「約3万人の "explorers"とテクノロジー愛好家らが裁判所の決定に注目している」と伝えていた。

法廷を出た後、弁護団とともに報道陣の前に現れたアバディさんは、これも史上初となる"グーグルグラスを着用した状態での記者会見”を開催。(動画は本人のGoogle+で公開中)

「今回は判決はうれしいが、本当のゴールはグラスが安全であることを人々に知らせることだ。ウェアラブルテクノロジーはドライバーに死角など与えない」と発言。

「ハンズフリーのグーグルグラスはスマートフォンよりも安全なんです。テクノロジーの進化は社会に混乱をもたらすこともあるが、私たちは新しい物を恐れず、検証を重ねる必要がある」と、約12分間に渡り会見を行った。

今回の決定で注目すべきはアバディさんが言うように「法の整備がテクノロジーの進化に沿っていない」というポイント。

弁護団の男性は「審理には勝ったが、残念ながら運転中のグーグルグラス着用そのものに司法の判断が下りた訳ではない。運転中のグラス着用を認めるかどうかは、今回のような交通取締りの現場ではなく、もっと高度な司法レベルでの判断が期待される」と話した。

弁護団は公判前から「ドライバーが運転中にテレビを見ることを禁じた規則は、グーグルグラスが世に登場するはるか以前につくられた古い法律に過ぎない」と主張。
「例えば運転中にラジオのチャンネルを変えたり、様々な計器に気を配ったりすることも、わき見運転かもしれないが、我々は既に自身の合理的判断でそれを行っているではないか」と述べていた。

アバディーさんのGoogle+のページには、今回の無罪判決を歓迎する声が多数寄せられた。

「よくやった、セシリア! グーグルグラスにとっても、ウェアラブルテクノジーにとっても歴史的瞬間を刻んだ」

「テクノロジーはいつ、いかなる状況においても自由であるべきで、しかも平等に与えられるべきだ」

「Google Glassに対する世間の無知を明るみに出してくれたことに感謝する。今後は法律家や心ある議員たちが、偉大なテクノロジーに対して、もっと広い心を持ってくれることを期待しよう」

会見の後半でアバディさんは、右目の上側に表示されるモニターが、運転中に一切視界を遮るものではないことを、身振り手振りを交えて説明。
「私がグラスファミリーと呼ぶ、explorerたちは当たり前のように毎日グラスをつけて運転をしています。ドライブ中に"OK,Glass."と呼びかけて写真をとることや、ウインクで写真をとることも一切危険ではない」と、熱弁した。

繰り返しになるが、今回の決定はあくまでも「証拠不十分」による無罪。運転中のグラス着用が認められた訳ではなく、今後もグラスを着用した運転者に違反切符が切られる可能性は十分ある。

Googleは「2014年中にはグーグルグラスの一般発売を開始する」と見られているが、当のGoogle側としても今回の裁判所の決定は大いに気になっていたはず。

会見の終盤では、記者から「今回の件でGoogle側からの接触はあったか?」との質問が飛び、
弁護団の男性は「先方の側から接触は無かったが、初期の段階でGoogleとコンタクトをとろうと試みた」と回答。一方でアバディさんは「その件に関してはノーコメント」答え、会見を終了した。

米国では既にデラウェア、ニュージャージー、ウエストバージニアの3州がグーグルグラスの運転中の使用を規制している。また、運転中のグラス使用については英国でも関心が高まり、1月初旬には英サンデータイムズなどが「Googleがイギリス運輸省と会談を行い、グーグルグラスと道路交通法の運用について意見交換を行った」と報道している。(Google Glass Info編集部)