先日、東京・お台場で開催された「G空間EXPO2014」。今回は3日間で約2万人の来場者を記録したが、中でも注目を集めたのが11月14日のメインステージで開催された「ウォッチ vs メガネ G空間を制するのはどっち?!」と題されたトークイベント。 Gexpo
“ウェアラブルデバイスの最新動向”をテーマにしたこのイベントは「ウェアラブルの伝道師」としておなじみの神戸大学・塚本昌彦教授の司会のもと、スマートグラス開発の最先端を走る3名が集結した。

参加者は“和製グーグルグラス”の異名をとるメガネ型デバイス、inforodoの開発元・ウエストユニティス代表の福田登仁氏、ジェスチャー入力が特徴的なヘッドマウントディスプレイ、mirama開発元のブリリアントサービス代表の杉本礼彦氏、さらにエプソンでMOVERIOの開発を手がけた津田敦也氏。

ここでは各人の発言を要約した形でご紹介したい。

塚本昌彦: ウェアラブルは今、急速に注目を集めている状況にあります。私も講演などで非常に忙しくしていますが、ここにいる3名のみなさんも連日、各地を飛び回っている状況だと思います。
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今回のテーマは「ウォッチvsメガネ」ということですが、まずはウォッチの話から始めましょう。今年の夏にはAndroid Wearがリリースされ、スマートウォッチが非常に注目を集めるようになった。その中で一番の台風の目と言えるのが来年2月に発売が噂されているアップルウォッチだと思います。

まずは、みなさんのアップルウォッチについての印象をお聞きします。

福田登仁(ウエストユニティス代表):
(アップルウォッチは)やはり、なかなか洒落てるなぁと思いました(笑)。リリースのタイミング的にはかなり後発なので、機能的にもっと先進的なものが入っているのかと思ったら、ファッション性が強く強調されている点に驚きました。
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杉本礼彦(ブリリアントサービス代表):
アップルがやはり凄いなぁと思ったのは、発表してすぐに「VOGUE」などの女性向け大手メディアに好意的な記事を書かせたこと。マーケティング手法はがさすがアップルだと思いました。男性用と女性用で大きさの違うモデルを用意している点にも関心しました。
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ただ、外見で一つ気になったのはやはりあの分厚さ。アップルの技術をもってしてもバッテリーの持ちを実現するためには、あの厚みになってしまったのかと思いました。でも、分厚いから本当はダサいはずなのに、VOGUEなどに良い記事が出ることによってオシャレ感を演出している点が巧みだと思いました。

津田敦也(エプソンMOVERIO開発担当):
アップルに関してはまさにブランド力の強さを感じました。実はエプソンは世界で唯一、スマートグラスとウォッチの両方を出しているメーカーなんですが、我々もその辺りをもっと市場にアピールしていく必要があると思いました。
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今、スマートウォッチが注目されている背景には、近年、スマホがどんどん大型化し、人によっては負担に感じることも関係していると思います。今後はGPS機能を持ったウォッチも増えてくるんじゃないでしょうか。

塚本: 一方でメガネの分野では2年前にグーグルグラスが登場し、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の注目度を一気に高めました。グーグルグラスの特徴は、従来は大きくて重かったメガネ型デバイスの欠点を克服し、非常に小さくて高機能な機器を実現したこと。それに触発され、様々なメガネ型デバイスが出てきました。

ここでスマートグラスに対するみなさんの取り組みをお聞かせください。

福田:
弊社の製品、inforodはグーグルグラスと比較されることも多いですが、スマホとの連携が不要で単体で動作するのがグーグルグラスとの大きな違いです。瞳分割方式という光学技術を採用し、表示部分が非常に小さいのも特徴と言えます。
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inforod(ウエストユニティス社)。製品名のinforodoはinfo(情報)とrod(釣り竿)を合わせた造語。製品説明スライドはコチラから

当初は大きな図面が見たいとか、マニュアルが見たいとか、大画面で情報量が多いものをという要望もあったが、実際に制作してみると片眼でたくさんの情報は見られないことが分かり、この形になりました。 メガネ型デバイスの場合、サイズが大きいと視界を覆うので、安全性も落ちてしまう。視界を妨げず、様々な産業用途に使えるデバイスとして利用していただく方向を考えています。

杉本:
弊社のスマートグラス、miramaの開発にあたっては、まずコンピューターに触れたくないシチュエーション、というのを想定しました。PCを触りたくない状況というのは、例えば屋外の作業で手が油まみれだったり、手術中のお医者さんが手を清潔に保ちたいという状況。 医療関係の現場ではiPadをジップロックに入れて持ち込み、イソジンに漬けて無菌化しながら使ったりもしてますが、それでもやはり感染症のリスクがある。さらに、騒音がひどくて音声入力もままならない状況での使用を考え、ジェスチャー入力ができるデバイスというテーマで発案したのがmiramaです。
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mirama(ブリリアントサービス社)。カメラの前で指をL字型にすることで写真が撮れるなど、ジェスチャー認識機能が特徴。公式サイトはコチラ

開発を始めてみて印象的だったのは、ジェスチャー認識に関わる部品の調達で海外のメーカーに相談したところ、急に買収されることが決まり、もう対応出来ないと言われるケースがよくあったこと。世界的に見て、今はジェスチャー入力の分野が非常に盛り上がりつつあります。 

津田:
弊社のMOVERIOの場合は両眼式のシースルーディスプレイを採用していますが、その背景には自社で長い間、液晶ディスプレイの開発をやってきた歴史があります。様々な検討を重ねる中で、フルHDや4Kを採用するというアイデアもありましたが、いくら解像度や画素が増えても、小さな画面で見えなければ意味がない。しっかり見てもらえるように、両眼式のディスプレイの形で完成させました。
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MOVERIO(エプソン)。新モデルのCMではAKB48・渡辺麻友を起用。国産スマートグラスとしては恐らく今、最も知名度が高い存在。公式サイトはコチラ

MOVERIO の特徴はスマートフォンよりもはるかに大きい映像イメージを、どこに居ても楽しめるデバイスという点。両眼式ディスプレイの難しい点は、左右の画面が数十ミクロンでもズレると使い物にならないことですが、その辺りのハードルも技術屋魂で克服しました。

塚本: さて、ここで本日のメインテーマの「ウォッチVSメガネ」という話をしたいと思います。

スマートウォッチの利点は手軽に身につけられる点。メガネに比べると日常的に使いやすいデバイスと言えそうですが、技術的な観点から言うと、スマホの部品を流用して、メガネよりも低コストで製造ができる点も特徴だと思いますが、みなさんはどういう考えをお持ちですか?

福田:
弊社の場合、産業用に主眼を置いたデバイスをメインに考えてますので、正直なところ、ウォッチのことはあまりよく分からないというスタンスです。工場の組み立て作業などは両手でやるものなので、そこにウォッチを活用するのはなかなか難しいかもしれない。

杉本:
ウォッチの場合、既存の腕時計とスマートウォッチが競合してしまうのが一つのハードルかもしれないと思っています。 例えばフォーマルなシチュエーションでは、男性の場合、機械式の腕時計をするのが普通だと思うんですが、そういう場合でもスマートウォッチを着けるという人が、果たしてどの位いるのか。

塚本先生のように常に複数のスマートウォッチを着用されているのは、まぁ特殊な例として(笑)。一般の方は腕時計というのは普通、一つしかしないものです。そういう課題がスマートウォッチにはあると思います。

津田:
ウェアラブルで重要なのはやはり、身に着ける必然性があるかどうかだと思います。そういう意味でアップルウォッチが凄いのは、やはりブランド力というか、それを身につけること自体に消費者が意味を感じるデバイスになっている点が強みだと思います。
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ただ、本日は「G空間」がテーマのイベントですのでその関連で言いますと、位置情報を取得する上で一番精度が高いデータがとれるのは実は頭の部分です。それは人間が常に頭を水平に保とうとするからですが、時計の場合は腕をふったり、いろんな誤差が入ってきてしまう。人の動きを記録するという点では、メガネ型のデバイスのほうが優れています。

塚本:最後に、みなさんの今後の課題をお聞かせ下さい。

福田:
inforodを作って思ったのは、やはりメガネタイプの場合、一番大事なのは装着性だということ。人間の頭というのは常に動いていますから、そこに安定的に情報を表示させるというのは非常に難しい。また、メガネを普段かけ慣れていない人でも、気持ちよく装着できるデバイスにできるかどうかも重要なポイントだと思います。

杉本:
スタートアップ企業の立場から言うと、まず悩むのが部品の調達ですね。スマートフォンの汎用部品というのはわりと簡単に調達できますが、メガネで難しいのはプリズムなどの光学部品の入手。そういう部品の値段はなかなか下げるのは難しいですし、重量が軽い物を求めると非常に高価だったりする。大量に発注しないと応じてもらえないケースもあります。そういうサプライ方面での難しさというのは一つの課題ですね。

津田:
我々も色んな面で苦労しています。ただし、課題があるということは必ず進歩の可能性があるということ。それを克服するために常に頭をフル回転させてます。色んな難しさはありますが、常に前向きにとらえてがんばっています。

塚本:みなさん。本日はありがとうございました。
(Google Glass Info)
写真提供=G空間EXPO2014